イタリアではカフェのことを基本的には「バール(Bar)」と呼びます。バールにはカウンター(Banco バンコ)があり、地元の人たちはバンコに立ってさっと飲み食いしています。それだけでなく、イタリアの多くの広場にはテラスが張り出されたカフェやレストランが存在します。イタリアのバールの営業時間は長く、朝7時から夜の12時過ぎまで開いていることも。バンコでの料金はテラスよりぐっと安いので、テラスは高すぎるけれども店内に入りたいという時にもオススメです。
「イタリアのエスプレッソはフランスの2倍濃いんだよ。エスプレッソにスプーンが立つ程ね」と留学中にフランス人に教わりました。イタリアをよく知るフランス人は、口を揃えてイタリアのエスプレッソにはかなわないと語ります。エスプレッソの本場、イタリアでは、エスプレッソを(ナポリのピザのように)ユネスコの文化遺産に登録しようという動きすらあるようです。イタリアのエスプレッソは左の写真のように水分量がとても少なく、ギュッと凝縮した豆の風味と砂糖の甘さとが絶妙なハーモニーを醸し出し、その苦甘い感じがまるで人生を象徴するかのよう。国際カフェテイスティング協会の横山千尋さんによれば、イタリアは地方ごとに好まれる味も異なり、使用する豆のブレンド方法も変わってくるそうです。エスプレッソ用の豆は、砂糖としっかり混ぜた時に一番美味しくなるようにブレンドされているため、砂糖はしっかり溶けるまで30回かき混ぜたほうがいいんだそう。一般的に、イタリア人は働かないと言われがちだですが、カウンターできびきびと働くバールマンの仕事っぷりは美しいものです。駅構内のバールですら、彼らの淹れるエスプレッソはリズミカルで素早く、目が飛び出るほどの美味しさ。もちろんクレマ(エスプレッソ上部のクリーミーな部分)は濃厚。ちなみに私が一番感動したのは、ローマの地元民に愛され続けるサンテスタキオのエスプレッソ。飛行機に乗ってでも飲みに行きたいくらいの美味しさでした。
イタリア人はバールで朝食をとる人も多いようで、バンコで立ち食いはごく普通。フランスのクロワッサンとは違い、似たような形の「コルネット」には、チョコレートやマーマレード、クリームなどの詰め物が入っているのが一般的だそう。1つでかなり満腹になる、甘〜い朝ごはん。コルネットはなかなか日本で見かけません。
イタリアには目が飛び出るほど美味しい食べ物や飲み物があり、グラニータもその1つ。グラニータはスイカやレモンなどのエキスとシロップを細かい氷とともに長時間混ぜたもの。あまりに暑いイタリアの夏、ジェラートは凄まじい勢いで溶けるため、イタリア人並みに上手に食べれない人はすぐに手がべとついていきます。それに対してグラニータは同じ暑さでもグラスがあるから手がべたつくことがなく、焦らずゆっくり食べていられるので、夏の旅のお供におすすめです。食べるとかなりさっぱりし、猛暑もどこへやらという気分になるので、真夏の日本にもっと取り入れてもらいたい飲み物。
サヴォイア王家があったイタリア北部のトリノは洗練された宮廷文化が栄えた街。イタリアの貴族や王家の人々は、宮廷内だけでなく、カフェに行くことも楽しんでおり、なんと国王までもがカフェを好んだというから驚きです。カフェには貴族だけでなく政治改革を試みる者や知識人も集い、ニーチェが通ったというカフェも。きらびやかなカフェが栄えたトリノでは、ビチェリンという、コーヒー、クリーム、チョコレートが3層になった飲み物が愛されました。ビチェリンには小さなクッキーが添えられ、それを浸して食べることが好まれたそう。ビチェリンにはスプーンが添えられるものの、混ぜて飲むのはダメよ、と元祖ビチェリンの店のおばさんが言っていました。異なる層が口の中で混じり合うのを楽しむのが、ビチェリンの良さ。
アペリティーボ(食前酒)でおすすめはオレンジ色の飲み物、スプリッツ(Spritz)。こちらは北イタリアから始まり、今やヨーロッパやアメリカでも大人気というオシャレなドリンク。イタリアに行くと夕暮れ時には非常に多くの人がテラスでこのオレンジ色の飲み物を幸せそうに飲んでいます。スプリッツは、アペロールという北イタリア産の苦甘いリキュールに、プロセッコ(または白ワインと炭酸水)とオレンジのスライスを添えたもの。この苦甘さと炭酸の爽やかさが暑い夏にはたまらない。東京でもなかなか出会えないので、自宅で作り始めたらすっかりハマってしまいました。やはり炭酸水よりはプロセッコの方が断然おすすめ。