18世紀、イギリス中に茶の飲用が広がり、優雅なアフターヌーンティは19世紀後半に発展していきました。18世紀後半から19世紀前半にかけて、産業革命とともに裕福になっていったイギリスのブルジョワたちは、貴族のような生活や、高価で貴重だった中国のお茶とそれを楽しむ時間に強い憧れを抱きます。
ヴィクトリア女王も大のお茶好きで、彼女の生活にお茶は欠かせなかったそう。産業革命で世界が激動する最中、都市が煤煙で汚れる最中に「ゆっくりとお茶を楽しむ」ということは、誰にもできたことではないだけに、こうした優雅な時間を過ごせること、高価なお茶を取り寄せ、よりすぐりのティーセットを揃え、人を招ける美しい空間(ドローイング・ルーム)を持つことはただのくつろぎの時間を超えて、女性たちのステイタス・シンボルであったといえるでしょう。
アフターヌーンティは富裕層の間で1850年ごろに始まり、1870年ごろには多くの家庭に広まるようになったといいます。現在のアフターヌーンティの多くはホテルで提供されており、値段も一人5000円程度とわりと高額。とはいえイギリスに行ったら一度は楽しんでみたいアフターヌーンティ。イギリスの料理はあまり美味しくないという噂でも、アフターヌーンの味わいは格別です。
私がイギリスで初めて経験したアフターヌーンティはアガサ・クリスティが通ったというブラウンズのアフターヌーンティでした。ここでの感動は忘れることができません。シンプルなきゅうりのサンドイッチがなぜこんなにも絶品なのか?高級感と、落ち着き、あたたかみを兼ね備えたそこにしかない雰囲気。食べたいものは好きなだけおかわりができ、お茶も並々とついでもらえる。シンプルなサンドイッチでここまで感動したのはあとにも先にもここだけです。初めて来たイギリスに、自分の居場所が急に与えられたようなあたたかみのあるもてなしと、伝統とモダンが絶妙にマッチしたデザインの空間。何を言ってもあたたかく要望に応じてくれるスタッフたち。これが紳士の国イギリスか・・・という感動はあれから何年もたった今でも忘れることができません。その後数々のアフターヌーンティに行きましたが、ブラウンズでの経験にはかないません。一人7000円近く払いましたが、それだけの価値ある美しく思い出深い経験でした。ブラウンズは1837年にロンドンに初めて誕生した伝統あるホテル。
小学3年生の息子を連れてヨーロッパを旅した後、最中目的地だったロンドンで疲れ果てていた私には何の気力も残されていませんでした。宿のベッドから起き上がれずにいた私の中で「美味しいお茶が飲みたい!」という想いが湧き上がり、立ち上がって真っ直ぐに向かった先はフォートナム・アンド・メイソン本店。有名なティールームの入り口に立ってみると、スタッフの方に今なら最後の1席だけ空いていますと言われてしまう。二人分のアフターヌーンティ代は本当に高い!けど、一生に一度のチャンスかと思い、えいやっと入ってみることに。
ここでお茶を一口飲むと、これまでの疲れがスーッと溶けていくようでした。ああお茶は薬だったんだ・・・本当に美味しいお茶は疲れや気分の重さを吹き飛ばし、こんなにも爽やかな気分にしてくれるからこそ、イギリス人にあれだけ求められてきたんだな、と痛感した瞬間でした。
フォートナム・アンド・メイソンのアフターヌーンティは、茶葉部門でトップと言われています。こちらは様々な茶葉があり、私も長年愛用していますが、定番のロイヤルブレンドやアッサム等だけでなく、他にも絶品!というブレンドが沢山あります。私がダントツに好きなのはこちらで買ったウエディング・ブレックファースト。フォートメイソンもおすすめです。イギリスから帰ってくるたびにフォートナムアンドメイソンの紅茶を飲んではカフェイン中毒になってしまうのは、本当に美味しく、かつ気分がすっきりするからでしょう。こちらのアフターヌーンティではほとんどの茶葉を試すことができるので、実際に飲んでから購入したい方にはとてもおすすめ。茶葉の大きな缶も、本店で買えば全然高くありません。ケーキは私には甘すぎでしたが、スコーンは絶品でした。アフターヌーンティといっても、お茶へのこだわりが少ない店は多いため、本当に美味しいお茶が飲みたいという方にはフォートナム・アンド・メイソンがおすすめです。本店は百貨店のようで雑貨、食料品など様々なものが揃い、いくら時間があっても足りません。
ロンドンの5つ星ホテル、ランハムは1865年の創業当時、アフターヌーンティの提供を初めて行ったホテルで、アフターヌンティ誕生の地とも言われています。『シャーロック・ホームズの冒険』には、身分を隠したヨーロッパの王子が登場しますが、シャーロック・ホームズが「それでどこに滞在されてるんですか?」ときくと「そこのランハムだよ」彼は答えます。そんな身分の人が泊まるホテルだったわけですね。天井が高く、白を基調としている空間は、気遅れするほどゴージャスな空間ですが、実はイギリスのアフターヌーン・ティ・アワードの子供に優しい店部門でトップに選ばれており、子供向けのアフターヌーンティセットがあるのです。息子はセットについてきた大きなテディベアをもらって喜んでいました。かなり高級感あるゴ空間とはいえ、子供の姿もわりと多く、彼らも教育をかねて特別な日に連れてきているのだろうなと感じました。ラングハムは素材にもかなり気を使っているようで、ここで食べたサンドイッチはかなり美味しく、私も息子も何度もおかわりをしてしまい、デザートにまで手が届かないはめに。スタッフの方も非常に親切で、「本当にもういらないの?もっとあるわよ」と何度も来てくれ、親子で楽しい時を過ごすことができました。
「ヴォーグ」誌でロンドンのベストアフターヌーンティのひとつに選ばれたゼッター・タウン・ハウス。肩肘はらずにイギリスらしいクラシックなアフターヌーンティを楽しみたい、という方におすすめ。非常にこだわりあるインテリアで、絵画や多くのアンティークが飾られています。ホテル、というよりもイギリスのお金持ちの家に泊まりに来たような感覚で、リラックスしながらのんびりとした時間を過ごしていられます。ここは他より値段が安かったためか、食べ物のおかわりはできなかったような。あまり観光客にも知られていないため、ひっそりとした空間で、イギリス気分を存分に味わっていられます。旅行につかれて落ち着きたい時におすすめ。ハイドパークの近く。
ロンドンのアフターヌーンティは高級!ですが、一歩外に出ると意外と手頃な価格でアフターヌーンティが味わえるようです。マンチェスターは産業革命時に工業都市としてトップクラスに栄えた街で、あちこちに19世紀の文化遺産がゴロゴロしています。あまりに素晴らしい建物が普通にあるため、それらの多くは学校の施設やオフィスの一角となっており、もったいないほどです。そんな名建築だらけのマンチェスターの中でもランドマーク的存在であるミッドランドホテルは1903年創業で、数々の国王や女王が宿泊したという由緒あるホテル。あまりの美しさにヒットラーが爆撃対象から外したそう。なぜなら彼が占領したあかつきには、ここを彼のオフィスにしたかったからだとスタッフは語ります。それほどまでに豪華なホテルの1階では、ロンドンよりも低価格で優雅なアフターヌーンティが味わえます。これがあのボーンチャイナか、という独特の味わいある美しさのティーセットで提供されるアフターヌンティ。窓際に座るマンチェスターの優雅な人たちを眺めていると、観光客の多いロンドンとは違い、本当のイギリス人のアフターヌンティの豊かな世界を垣間見せてもらえているような気がします。静かな空間から聞こえてくる音は人々の話し声、食器が触れる音、そして窓から差し込む恵みのような木漏れ日。19世紀のブルジョワたちの生活もこんなだったのかしら、と当時に想いをはせてしまえる、シンプルだけれども優雅さのある空間です。
香港はイギリスに統治されていたため、中国茶の茶文化に加えてアフターヌーンティが盛んな街でもあります。その中でもトップと言われているのがペニンシュラ。とはいえ、ここは予約を受け付けておらず、ひたすら待たなければなりません。あまりの暑さと湿気に耐えかね、もう今日は3時間ゆっくりペニンシュラでお茶を飲もう・・・と心に決めたものの、まさか1時間立って待つはめになるとは。待ちに待ってようやく座れた空間はなかなか優雅で生演奏も聞こえてきます。とはいえ食べ物のおかわりはできず、お茶も数種類選ぶことができなかったように思います。息子はサーモンのサンドイッチの美味しさに感動。お菓子はかなり甘さが強め。香港のペニンシュラ、といってもスタッフの態度からはあまりお茶に対するプロ意識が感じられず、同じお金を払ってわざわざ行くならイギリスのアフターヌンティの方が断然おすすめ。とはいえ香港でトップクラスの待ち合わせ場所といわれる独特の雰囲気あるロビーは訪れてみる価値あり。
ブラウンズでアフターヌーンティに感動してから東京でもその感動を再び・・・と思い、様々なアフターヌンティに挑戦してきましたが、景色はよくても感動にまで至らないという店の方が多いというのが実感です。イギリスの場合、お菓子がたとえ甘すぎても、スコーンは絶品なので、それだけでも食べにきた価値がある!と思うのですが、日本ではそうもいきません。シンプルで本当に美味しい、中はしっとり、外側はカリッとしていて、口の中でほろっと溶けていくようなスコーンにはまだ出会ったことがありません。そんな中でもここはおすすめという場所は赤坂クラシックハウス。こちらは中に入るとまさにイギリス気分で、他のホテルほど高額ではないのに、どのお菓子も非常に丁寧に作られているのが伝わってきます。私が行った時はスコーンではなくアップルパイでしたが、これまででベストと思われるほど絶品のアップルパイでした。お茶の種類もわりと多く、きちんとした味わいだったように思います。費用対効果を考えると、ここがダントツでおすすめです。赤坂クラシックハウス
帝国ホテル東京では17階のインペリアルラウンジ アクアという上質でゆったりした空間で素敵なアフターヌーンティが楽しめます。帝国ホテルのアフターヌーンティーは他のホテルに比べると割安です。紅茶やお茶も様々な種類が頼め、カフェインレスの飲み物も豊富。スコーンもとても美味しいです。その中でもトップクラスにおすすめなのが、リサとガスパールのアフターヌーンティ。動画で帝国ホテル気分をお楽しみください。