どうすれば自分の街に賑わいを取り戻すことができるだろう、もっと若い人がこの街にいればいいのに・・・と思ったことはありませんか。頑張ってもうまくいかないのは、成功するまちづくりの基本を飛ばして応用編にトライしているからかもしれません。語学や茶道も基礎が大切。基礎がままならない状態で難しい応用編にトライしたら、うまくいかずに挫折感や、やるせなさを味わうのは当然です。語学や茶道の基礎を習える場所はどこにでもありますが、まちづくりの基礎は一体どこで習えばいいのでしょうか?
まちづくりに関する本や事例集は溢れている一方で、まちづくりの基礎をしっかり学べる日本語の本を見つけるのは非常に困難です。誰しも英語を基礎から学べば話せるようになるように、実はまちづくりにも成功の法則や、身につけるべき基礎があります。
にぎわっているエリアには普遍的な7つの法則があります。私は1960年代〜最近までの国内外の研究書を読み漁り、かつ世界の多くの都市を訪ね歩き、活気あるエリアで実際に当てはまるかどうかチェックしながら、そのルールを導き出しました。欧米のみならず、日本でも、人を惹きつけることに成功しているエリアにはほとんどこのルールが当てはまります。こうした世界の知が、それを強く求めているはずの日本人に伝わらないという現象は、まちづくりの分野に限りません。その大きな理由は語学が壁となり、世界の知に到達できないからなのです。
ではパブリックライフを活性化し、そのエリアに賑わいをもたらす7つのルールとは具体的にどのようなものでしょうか?
あるエリアに賑わいを持たせようとした時、非常に重要な前提条件となるのがエリアの歩行者空間化。車が少しでも通る可能性のある道では人は安心して斜めに横断したり、ショーウィンドウをぼんやり眺めることができません。歩行者にとって車にひかれないという安心感はとても重要です。そのためには、活性化したいエリアの裏道や小道をできる限り面的に歩行者空間化することが大切です。歩行者空間化した道には独特の安心感と静けさが生まれ、人々の歩みはゆっくりし、ぶらぶら歩きが増加します。
街に賑わいを生み出す存在の歩行者は、疲れやすく、面倒なことが大嫌い。人の継続歩行距離は半径500mといわれます。それだけ歩いた後、座って一息つける場所があるかどうかは、その街の居心地の良さを左右します。行けども行けども座れる場所がない場合、疲れ切った歩行者は二度とそのエリアに行こうとしません。
ではどこにでもベンチを置けばいいかというと、ことはそう単純であはりません。ベンチの設置方法にもルールがあります。人は座る時には立ち止まる時以上に安心感を気にするため、ベンチの設置場所には気を使う必要があるのです。近年の欧米の公共空間には、パリのリュクサンブール公園で1920年代から使われてきたフェルモブ社の椅子のように、可動式の椅子が設置されることが増えています。可動式の椅子やテーブルがあれば、人はより自由にその場所を使えるようになります。
賑わいを生み出すコツは、とにかく凝縮させること。特に街の中心的存在であるハイライトのまわりに、まずは店や活動を集中させ、凝縮した賑わい空間を創ります。平等の名のもとに、様々なエリアにはじめからエネルギーを分散させてはいけません。ハイライトは歴史的建造物や、シンボリックな意味をもった場所であり、それだけで人を遠方からひきつける磁石のような存在。その磁場を最大限に活かすべきなのです。日本の寺社仏閣でも参道に店が栄えたように、ハイライトのまわりを、歯抜けの状態をつくらず、魅力的なアクティビティでびっしり埋めること。するとそこを起点にして、周辺のエリアにも人が流れるようになるのです。
人が一番安心して時を過ごせる場所は、まず建物の角、そして縁(エッジ)だと言われています。人は背後に目がついていないため、背後に壁があると安心していられるのです。では人はエッジにいて何をするのでしょうか?美しい自然を眺めていたい?実は人は自然より、人に惹かれる傾向があります。「人は人の集まるところに集まる」というのが賑わいを生み出すまちづくりの鉄則です。人はエッジから他の人の行動をぼんやり眺めていたいのです。イタリアの海岸には多くの人が集っていますが、泳いでいる人はごくわずか。ほとんどの人は海をぼんやり眺めつつ、近くの人や波打ち際でたわむれる人たちを眺めています。人が一番興味をもって惹きつけられてしまうもの、それは人の活動なのです。
人は一瞬にしてその空間の雰囲気を見抜く力を持っています。無機質で面白みのないエッジに囲まれた空間は、人を歓迎していないオーラを放ち、それを感じた人はそこに来ることを拒みます。一方、歓迎感ある空間の場合、自分が受け入れてもらえた気になって人はいい気分になり、そこに滞在したいと思うもの。カーネギーは、つねに相手を重要な人物として扱いなさいと説きますが、まちづくりにも全く同じルールが当てはまります。歓迎感はエッジのデザインによって感じとることができるもの。エリアの外観に統一感があり、その空間への気遣いが感じられること。香りがしたり、触れられる商品が路面に出ていること。店員さんが街路の方を向き、歩行者に背を向けていないこと。そして最も歓迎感を感じさせるエッジのデザインといえば、人々が腰掛けて楽しそうに街路に向かって座っているオープンカフェなのです。
まちづくりではミクストユーズ、用途の混合の重要性が説かれています。郊外の住宅地やビジネス街のようにひとつのエリアが単一用途向けになってしまうと、ある一定時間だけ非常に混み、あとはガラガラで誰もそこを利用しないという、時間帯や曜日による極端な差や空白が生まれてしまうからです。また、単一用途のエリアは、その用途と関係ない人を寄せ付けません。そのニーズだけでまわっている場合はよくても、そのニーズが減ると歯抜けの状態が加速し、ひどい場合はエリア全体が空白地帯と化してしまいます。住居か通勤かの二者択一ではなく、オフィスもあれば住宅もあり、商業もあり、ひとところで多様なニーズを足せることが重要です。
エッジに魅力をもたらし、エリアに活気をもたらすために飲食店の存在は欠かせません。その土地ならではのものが、手頃な価格で提供されていれば、多くの人がそこに集います。中華街の肉まんや、浅草の揚げまんじゅう、伊勢の赤福、温泉街での温泉まんじゅうなど、他ではあまり食べらない名物などで、路上で食べられるものが最適です。イタリアの広場でも、飲食店がない広場は閑散とし、オープンカフェがびっしり並んだエリアには人が大いに集っています。手頃な価格で、かつ道ゆく人に開かれた飲食店は、まさにあなたを歓迎していますという合図であり、そこにゆったりと滞在している人の姿が、より一層多くの人を惹きつけ、カフェがあるエリア全体に賑わいをもたらすのです。